東大はなぜ記述式の問題を出すのか?

一般の人々は、私立大学の記号で解答する問題と東大の記述式問題の違いを認識していない。
一般の大学入試問題は、「暗記」を求めており、東大の入試問題は「考えること」を求めている。

その違いは、単純に、(1)作問のための人的資源の量の違い、(2)採点のための人的労力の違い に基づいている。

私立大学は、各学部ごとに入試を行う。共通の問題で入試を行うと受験料収入が減るからだ。そのためには大量の試験問題を作成しなくてはならない。しかし、例えば世界史の問題を作成できる能力のある教授の数は限られている。普通、大学では、対象地域と対象の時代の専門家、例えば、中世、イスラム教地域の専門家が、その関連の問題を作問する。ところが、私立大学の多くでは、教科書の範囲をカバーできるだけ多くの専門家を有していない。だから、市販の問題集のような「クイズ」形式の一問一答を基本とした作問を行う。これなら、他の専門家から見ても、間違った問題になるリスクが低いからだ。

採点についても、東大の場合には、専門家が採点を行う。世界史の問題を、日本史科の教授が採点するようなことはできない。作問の中心となった専門家中心となって、各学部ごとに採点者を固定して、同一学部の中で受験生に対して不公平が生じないように採点を行う。このような専門家だけが採点をする場合、受験生の人数を絞らなくてはならない。私立大学には、受験料収入は大きい財源であるから、より多くの受験生を受け容れたいのである。従って、専門家でない人間でも採点がでいるように記号式、穴埋め式の解答形式になっている。

このように、私立大学を含む一般大学は、出題陣、採点者の両方の事情から、一問一答式を基礎とした出題や、記述と言っても、教科書を丸写しする程度の、「論点のない」問題しか出題できないのである。これはあくまで出題と採点の技術的・人的な制約によるものなのであって、私立大学の出題形式と内容は、「学生が大学教育を受けるにあたって準備しておくべき勉強の具体的な内容」とは必ずしも一致していないのであるということを、受験生は知っておかねばならない。

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