君民共治

【焼き直し問題】(オリジナルは「御蔭参り」です)

【問題】

1873(明治6)年、大久保利通は岩倉使節団の欧米視察の経験をもとに、政府に対して政体を定めるよう建言した。次の引用文はその一部である。これを読んで下記の設問に答えよ。なお、引用文は現代語に改め、一部は要約してある。

(1) 政体には、君主政治、民主政治、君民共治(後にいう立憲君主制)の三種類がある。

(2) 民主の政は、天下を一人で私せず、広く国家全体の利益をはかり、人民の自由を実現し、法律や政治の本旨を失わず、首長がその任務に違わぬようにさせる政体であって、実に天の理法が示す本来あるべき姿を完備したものである。アメリカ合州国はじめ、多くは新たに創立された国、新しく移住した人民によって行われている。

(3) 君主の政は、蒙昧無知の民があって、命令や約束によって治められないとき、ぬきんでた才力をもつ者が、その威力・権勢に任せ、人民の自由を束縛し、その人権を抑圧して、これを支配する政体で、一時的には適切な場合もある。

(4) イギリスは土地・人口の規模が日本とほぼ同じであるが、その国威は海外に振い、隆盛をきわめている。それは3200万余の人民がおのおの自身の権利を実現するために国の自由独立をはかり、君長もまた人民の才力を十分にのばす良政を施してきたからである。

設問

大久保は諸国の政体を比較した上で、日本には君民共治の制がふさわしいと主張した。なぜそう考えたのか。当時の日本がおかれていた条件や国家目標を考えて、5行(150字)以内で説明せよ。

【解説】

まず、国会開設運動よりも早い時期から、政府は国会をつくることを考えていたことが史料から分かります。明治政府は、封建的身分社会では、国内に身分ごとに異なる利害と義務を有したグループがたくさんいるため、国として1つにまとまりにくい、という状況を打開するために、国会を作ろうとしていたのです。封建社会では、各身分が分断されていたと、抽象的に表現されるのは、この状態のことです。

明治の元老は、理想は国民主体の国家運営であり、民主政が良いと考えていたものの、国民が自ら政治主体となるには、国民の政治教育や国際情勢への理解が不足していると懸念したのです。そこで、一旦、立憲君主制を敷いて、過渡的な時期を乗り切ろうと考えたわけです。

こうしてみると分かるように、「御蔭参り」で見られる江戸時代の身分観に基づく国民の行動様式を転換するために国会を作り、国民に主体性を持たせることで、安定した国民国家を建設しようと明治の元老は考えていたことが分かります。

【答案の骨子】

「当時の日本の置かれていた状況」 

(1)国内:封建制の下での身分による分断的な社会が残っていた。 

(2)国際:列強諸国の植民地とされる可能性がある。

「国家目標」

富国強兵・殖産興業政策により、国民国家を形成する。

「なぜ、君民共治が良いか」 近代国家を建設する以上、君主専制は不適である。民度が十分に高くないので民主共和政の運営は困難である。従って、民度が高まるまでは立憲君主制が適切と考えたから。

【答案例】

国内は封建制の下で身分的に分断された社会の影響が残り、国際的には列強諸国の植民地とされる可能性がある状況下で、富国強兵・殖産興業により、国民国家を形成することを目標とした。近代国家を建設する以上、君主専制は不適である。民度が高くないので民主共和政の運営は困難である。従って、立憲君主制が適切と考えた。(150字)

【日本史の試験の解法】

ここで見たように、焼き直しは、前後の連続した時代に、首尾一貫した論理で解くことができる問題として再出題されることもあり、また、同一の時代で、別の角度から出題されることもあります。

東大の日本史では、まず、この焼き直しは4問中2-3問ですから、この焼き直しを見つけて素早く解くことが、ポイントになります。こういう事情がありますから、東大では、「正解」は発表しません。正解を発表してしまうと、焼き直し問題を出題することができなくなり、結果として、4問とも初見問題になります。すると、難易度が極めて高くなり、合格点が低くなってしまうのです。

【出題教授の考え】

かつて、私の生徒さんが、出題教授に質問した時のことを教えてくれました。それによれば。。。

『まず、質問の理由は、東大日本史の問題が練り込まれており非常に大きな関心を抱いていたためです。異なる年代の問題も、その時代に関する先端の研究の問題意識や、既存の研究へのアンチテーゼとなる問題意識が含まれていると同時に、現在の日本の社会経済制度や政治体制に対するメッセージになっていることから、一度、作問者と出題意図や論点について議論してみたいと思っていました。

先生は、入試問題関連では以下のようなことを仰っていました。

 東大入試の出題意図は全く理解されていないため、そこに関心を持ってくれたことは嬉しい。『異なる年代の問題も、その時代に関する先端の研究の問題意識や、既存の研究へのアンチテーゼとなる問題意識が含まれていると同時に、現在の日本の社会経済制度や政治体制に対するメッセージになっている』という君の理解は正しい。よく読み取ってくれた。

実際、入試でも、出題意図を踏まえた答案は殆どない。そのままではみんな0点になってしまうため、適当に基礎点のようなものを割り振り、出題意図に近づいていれば点数を加算というようなことをしている。』ということです。出題の意図を捉えて答案を作成すれば合格は間違いありません。ご健闘を御祈りします。

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